ツバメの巣、撤去か保存か──人と自然の共存を考える
春から夏にかけて、私たちの身近な住宅の軒先や駅のホームなどに、ツバメが巣を作る姿を目にすることがあります。
かわいらしい雛の姿や、忙しく飛び回る親鳥の姿は、季節の風物詩ともいえるでしょう。
しかし一方で、巣の下に糞が落ちてしまうことや、建物を汚してしまうなどの理由から、「ツバメの巣を撤去しても良いのか?」と悩む方も少なくありません。
本記事では、ツバメの巣を撤去すべきか、残すべきかについて、法律や倫理、地域との関係性を踏まえて考察していきます。
ツバメとはどんな鳥か?
ツバメ(燕)は、スズメ目ツバメ科に属する鳥で、春になると東南アジアなどの暖かい地域から日本へ渡ってきます。
古くから「幸せを運ぶ鳥」として知られており、ツバメが巣を作る家は「繁栄の証」「火事にならない」と言われることもあります。
人間の生活圏に近い場所に巣を作るのも特徴で、軒先、商店、学校の入り口など、人の出入りがある場所を好む傾向があります。
巣を撤去する前に知っておきたい法律
実は、ツバメの巣を勝手に撤去することは法律で制限されています。
ツバメは「鳥獣保護管理法」により保護対象となっており、卵やヒナがいる状態の巣を撤去することは原則として禁止されています。
違反すると、罰金などの罰則が科せられる可能性もあります。
もしどうしても撤去が必要な場合には、都道府県の担当窓口に申請し、許可を得る必要があります。
特に商業施設などで衛生面に影響がある場合は、代替の巣箱を設置したうえで、自然な形で移動してもらう努力が求められます。
ツバメの巣を残すメリットとは
ツバメの巣を残すことには、さまざまなメリットがあります。
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自然との共存:ツバメは昆虫を食べてくれる益鳥であり、農作物を守る一翼も担っています。
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地域のつながり:地元の子どもたちが巣の様子を観察したり、季節を感じたりする機会になります。
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縁起の良い存在:上述の通り、「ツバメが巣を作る家は運気が良い」という考え方は今も根強く残っています。
また、ツバメが毎年同じ場所に戻ってくる習性を持っていることから、「帰ってくる鳥」としての信頼関係が感じられるのも魅力のひとつです。
撤去を検討すべきケースとは
一方で、撤去を検討せざるを得ないケースも存在します。
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衛生面への懸念:巣の下に糞が大量に落ちることで悪臭が発生したり、店舗の入り口が汚れてしまうことがあります。
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安全性の問題:駅や病院など多くの人が集まる場所では、糞で床が滑りやすくなり、転倒事故のリスクが生じます。
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建物の劣化:巣があることによって壁面が汚れる、腐食するなどの心配がある場合もあります。
このような場合には、ツバメの活動時期が終わった秋以降に、巣の清掃や撤去を検討するのが望ましいでしょう。
人とツバメが共存するための工夫
ツバメの巣をそのまま残しつつ、衛生面や安全面の問題を軽減する方法もあります。
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糞よけシートの設置:巣の下に板やビニールシートを設置することで、糞の落下による被害を抑えることができます。
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簡易的な囲い:商業施設では、巣の周辺に囲いを設けて、お客様の頭上に糞が落ちないようにする工夫も見られます。
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啓発ポスターの設置:ツバメの巣を見守る活動であることを周囲に知らせることで、来訪者の理解を得ることができます。
まとめ:ツバメの巣に向き合う心構え
ツバメの巣は、私たちに自然の循環と命の営みを静かに教えてくれます。
撤去することも残すことも、それぞれに理由と必要性があるため、一概にどちらが正しいとは言い切れません。
しかし法令を守り、共存の姿勢を持つことは、私たちにできる最初の一歩です。
自分の家や施設にツバメが巣を作ったとき、その小さな命とどのように向き合うか。
自然を大切にする心と、人とのつながりを考える良い機会になるかもしれません。